「私が歯科医を辞めた理由」
〜その3〜
今日は、
「2. 教育制度に関する問題」
歯科教育の現状に関してお話しします。
以前、お話した通り、医療は技術職の一面を持ちます。
しかし、大学教育では技術を修練するための実習が年々減少しています。
特に、患者さんを通して学べる臨床実習が減少していることは、深刻な問題です。
つまり、大学在学中は見ているだけの経験で、
国家試験をパスした瞬間から先生として実践に望む訳です。
えっ、ええー?
ホントー??
なんて声も聞こえてきそうですが、
残念ながら事実です。
これでは新卒の歯科医師は自身を持って治療に望めるはずもなく、
不安でたまりません。
また、何より患者さんだって不安になります。
当然ですが、卒業後直ぐには実践に対応できる技術レベルではありません。
どんな職業でも同じかも知れませんが、
最低でも3〜5年間のトレーニング、修練が必要です。
現在の歯科医療制度では、
卒後1年間の研修医というトレーニング期間もあります。
しかし、トレーニング場所、指導する医師の数やその技量の問題もあり、
十分な臨床経験が積めるとは限りません。
実際には見学や介補についているだけの場合もあり、
トレーニングとしての治療経験としては十分とは言えず、
残念なケースもあります。
これでは自信を持って臨床に望むことは困難です。
現状では大学の医局に残って修行を積むか、
優秀な臨床家である開業医に勤められれば良いのですが…
大学では先ほど述べたように十分な経験と技術レベルの医師、
スタッフが不足気味です。
そこで、個人的に経験十分な先生に指導を仰げれば良いのですが、
そのチャンスに恵まれない場合は自力で技術の向上をしなくてはなりません。
このため、大学病院に3〜5年勤めていても、あまり技術的な向上が望めないことも少なからずあります。
また、良い伝があれば優秀な開業医にお世話になるチャンスもあります。
しかし、チャンスは極めて低い。
なぜなら、
実際の開業医でも現状ではビジネスとして臨床を行っているところが大多数ですから、
雇って即、戦力になる医師を求めています。
仮に新人を無給で雇ったとしても、
開業医の中で新人教育をしようとすれば、
そのために時間と労力を取られ、減収に直結してしまいます。
つまりは、戦力にならない新人を雇うメリットが全くありません。
このため、戦力にならない新人は余っており、
戦力になるパートタイムの医師は不足するという現象が起こってくる訳です。
加えて毎年、約2,000人の歯科医が誕生して来るので、
この現象に増々拍車をかける事になって行きます。
このような現状のために、
仮に就職できたとしても給与が極端に低くなる傾向にあり、
「初任給が何と10万!」
なんて、ビックリするような事も起きて来る訳です。
通常、数千万の学費をかけ、6〜7年の厳しい教育を受けた結果が、
コンビニのアルバイトより低い給与では、
さすがにあんまりだと思います。
これでは現在もさることながら、
今後は優秀な人材が集まってくると考え難い。
私個人としてはとても心配です。
私と同じ思いを持たれているのかも知れませんが、
医療界のため、後輩のため、
減収を承知の上で新人を雇い、身銭を切って教育を行う
崇高な先生もおられますが、その数も限られています。
現状では、
医療費が削減傾向にあり、
特に歯科はその傾向が強いので、
気持ちがあってもできない方も少なからずいる事でしょう。
しかし、医院経営が上手く行って初めて、
院長自身、また、スタッフの生活が守られるのですから、
背に腹は代えられないと言った事も致しかたありません。
では…
どこで、勉強するの?
どこで、トレーニングするの??
実は、大学や開業医の他に、
有料の講習会、研修会、トレーニングコースなどもあります。
しかし、とても高価なところが多く、
半日〜1日で3〜5万、中には10万円以上のところもあります。
何度も申した通り、歯科治療は技術職(知識+技術)なので、
1、2回の講習会では、レベルは向上しません。
この方法で本気で技術の向上を望むのであれば、
週に何度も通う必要がでて来る事でしょう。
しかし、現実的に実行するには莫大な費用が必要になってきます。
収入の何倍も払ってトレーニングできる新人はそうはいないと思います。
従って、
適切に学ぶ機会が少ない →実力が上がらない →就職先が少ない、もしくは無い
→自己への投資ができない →更に、実力が上がらない
これもまた、負のスパイラルとなっていると言えます。
これが現状です。
つまり、
優秀な人材であっても、
良き指導者のもとで適切なトレーニングの機会が与えられなければ、
成長は困難であるという事です。
(次回、「3. 医療のシステムに関する問題」に続く…)